【書評】日本のイノベーションのジレンマ【第2版】破壊的イノベーターになるための7つのステップ 玉田俊平太〈著〉2020年、翔泳社 2,000円+税

本書は、『日本のイノベーションのジレンマ【第2版】破壊的イノベーターになるための7つのステップ』(玉田俊平太著、翔泳社)です。

著者は、関西学院教授であり、イノベーションのマネジメントを研究者。イノベーション論の大家、ハーバード・ビジネス・スクール教授の故クレイトン・クリステンセン教授から直接教えを受けた経験もある方です。

以下、本書の概要です。

破壊的イノベーションとは?

既存の製品・サービスの性能や品質をより高めて、既存顧客のさらなる満足を高めるようなタイプのイノベーションを「持続的」イノベーションといいます。

これに対して、「破壊的」イノベーションとは、既存の主要顧客には性能が低すぎて魅力的に映らないが、新しい顧客やそれほど要求が厳しくない顧客にアピールする、シンプルで使い勝手が良く、安上がりな製品・サービスをもたらすものだと定義されます。

たとえば、大型コンピューターが主要顧客であったのに対して、性能がはるかに低かった初期のパーソナルコンピューターが、個人のホビーユーザーに受け入れられたのが、典型的な「新市場型」の破壊的イノベーションの例です。

一方、消費者が求める水準を超えた過剰な性能の製品・サービスに対して、よりシンプルで低価格なものを提供するのが「ローエンド型」破壊的イノベーションと呼ばれ、ティファールの電気ケトル、イケアの家具、ヘアカットのQBハウスなどがあてはまります。

イノベーターのジレンマとは?

さて、大企業にとってのジレンマは、持続的イノベーションでは圧倒的に無敵であるにもかかわらず、破壊的イノベーションにはなすすべなく負けてしまう状況です。

戦後、日本企業は、破壊的イノベーターでした。

トランジスタラジオで、真空管ラジオを駆逐したソニー、業務用ゲームを家庭で遊べるようにした任天堂のファミコン、オフィス用のレーザープリンターを破壊した、キャノンのインクジェットなど、数々の破壊的イノベーションをおこしてきたのでした。

しかし、現在の日本の状況をみると、液晶テレビを取り巻く状況では、持続的イノベーションが限界に達し、また、高性能、高機能であったガラケーが、破壊的イノベーターであるアップルのスマートフォンiphoneに駆逐されるなど苦戦が続いている。

破壊的イノベーターになるための7つのステップ

経営者は、持クリステンセン続的なイノベーションともに破壊的なイノベーションを起こすという「両利きの経営」が必要だと、著者は述べ、破壊的イノベーションを起こすための基本戦略として、以下の7つのステップを説明します。

①新市場型、ローエンド型の破壊的イノベーションの戦略アプローチをきめる

②多様性のある人材チームをつくる

③無消費の状態にある潜在顧客/満足過剰の顧客をさがす

④ブレインストーミングでアイデアを出す

⑤アイデアをスクリーニングする

⑥実行する組織を選任する

⑦別オプション:破壊的なイノベーションを起こしつつある企業を買収する

顧客が購入したくなる製品・サービスを生む出す方法~「片づけるべき用事(Job)」理論

本書では、クリステンセンがの破壊的イノベーション理論を補完する形で開発された、「片づけるべき用事(Job)」理論についてふれている。イノベーション理論では、競争力を失わずにイノベーションに対処が主眼であり、どのようにそのような製品・サービスを生み出すかの方法は述べていない。

具体的には、上記の7ステップで、②の多様性チームが結成されたら、「顧客がどんな用事を片付けたたいか」をみつけ、「それを妨げるものが何か」を洞察することになる。

そして、消費者がなんとなく不満に感じていながらも、その製品・サービスを我慢して使っている状態をテンションポイントと呼び、これが無消費の状況であり、これを解決して急成長をとげているのが、米国のウーバーだという。

米国のタクシー事情は、日本と異なり、車の整備もきちんとされておらず、運転手との英語の会話もままならず、また、料金メーター表示以外にチップの計算も必要で、利用者は大変な不便を感じていたが、それが当たり前だとあきらめていたところに、ウーバーという、便利、快適、安価なサービスが誕生したのわけです。

読後感

著者は、日本企業が、クリステンセン教授のいう「イノベーションのジレンマにおちいっている現状を憂え、大企業、優良企業が必然的に直面する、破壊的イノベーションとは何かを正確に知ってほしいという動機でこの書をあらわした。海外の事例だけでなく、日本の事例をたくさんあげてあり、大変理解しやすいと思いました。

また、イノベーションの日本語訳である「技術革新」を、「創新普及」にしてはどうかと提案している。新しいアイデアを創出して、(製品・サービスとして)社会へ普及して初めて、形になるからだ。市場調査、製造、販売などの活動を含めてイノベーションが完成するという主張にも共感しました。

2002年にノーベル賞を受賞した田中耕一さんも、イノベーションをしゃくし定規に考えずに、気楽に挑戦してほしいと語っています。

「もともとイノベーションの日本語訳は『新結合』、あるいは『新しい捉え方』とか『解釈』です。いろいろな分野の方々が集まって新しく結合する、新しい解釈をすることがイノベーションなわけです。失敗と思われることも、別の分野ではすごい発見になるかもしれない。もう少し柔軟に、広く解釈すれば、イノベーションはもっとたやすくできると思います。イノベーションを実際にやっている人も、単にくっつけただけじゃないかと思って、自分自身を低く評価している。そういった人たちに、もっと気楽に考えようよ、意外と簡単にできるよと伝えたい。」(田中さん)※2019年2月17日に放送した 「NHKスペシャル 平成史スクープドキュメント 第5回 “ノーベル賞会社員” ~科学技術立国の苦闘~」 

イノベーションを一部の研究者、開発者の天才がやることと考えずに、新結合、解釈することもイノベーションであり、どれは誰にでもできることだと思います。

また、「片づけるべき用事(Job)」理論において、どうやってニーズファイティングNeeds findingするかについて「仮説設定能力」が重要だという指摘があり、この部分を具体的に実践していくことが、イノベーションのカギだと思います。

以上