本書は、『直観と論理をつなぐ思考法』 佐宗邦威〈著〉(ダイヤモンド社 2019年 1,600円+税)です。
著者は、P&Gマーケティングで、ファブリーズなどのヒット商品を担当後、ジレットにブランドマネージャーを経て、ソニーで新規事業創出プログラムを立ち上げた経歴をもち、現在は、株式会社BIOTOPE代表。大学院大学至善館准教授を兼務されています。
本書は、タイトルにあるとおり、思考法の本であり、ビジョン思考について書かれています。
著者によると、思考の領域では以下の3つのタイプが存在しています。
①カイゼン思考(PDCAサイクルによる効率化)
②戦略思考(論理に基づき勝利を追い求める=論理とデータ)
③デザイン思考(創造的問題解決=手を動かす、五感活用、共創)
そして、ビジョン思考は、どれともことなる第4の思考であり、妄想を駆動力にして創造するという。
ビジョン思考のサイクル 妄想→知覚→組替え→表現
ビジョン思考のサイクルは、妄想→知覚→組替え→表現→妄想となる。
妄想
妄想は、自分の持つ欲望や好きなこと、ワクワクすることに向き合うこと。著者は、妄想を英語のVisionをこう訳しているので、読者は少し違和感があるかもしれない。
実現可能性がみえない妄想が、世界のエリートたちの間では、高く評価されているのに、日本では地位が低いと著者は考える。MIT教授のダニエル・キムは、「創造的緊張(Creative Tension)」という概念を唱え、人が創造性を発揮する際には、「妄想と現実のギャップ」認識することがかかせず、そのギャップを埋めようとするモチベーションが個人になかにうまれるそうだ。
話は変わりますが、関西学院大学の玉田教授は、「日本のイノベーションのジレンマ」の中で、破壊的イノベーションにおいて、ニーズファイティングという「顧客がどんな用事(Job)を片付けたいか」を考える際に、顧客のテンションポイントTension pointを解決することだとのべている。ここでいうテンションポイントは、顧客がなんとなく不満に感じながら、我慢して、その製品・サービスを使っている状態(無消費)のことだが、こちらもテンションを起点にしてアイデアを出すという同じ発想なのが興味深いと思います。
この章では、10%成長をめざすのではなく、10倍成長を考える、ムーンショット型アプローチが、個人の創造力、内発的は動機に訴えかけ、また人的資源などの制約から解放されるから、努力するより、楽だという。
また、問題解決型のアプローチが限界を迎え、顧客起点の商品開発プロセスをつくるヒエラルキー型組織から、ビジョンドリブンの組織(自立分散型=ティール組織)へのパラダイムシフトにより、各人がフラットにビジョンをつくるのが好ましいという。
知覚
知覚力を磨く、センスメイキングSense making理論によると、以下の3つのプロセスを通じて、知覚を鍛えることができるという。
①感知 — 言語モードをオフにしてありのままに観る
②解釈—箇条書きでなく、絵にして考える
③意味づけ—言語と画像を往復して、意味をつくる
組替
著者には、「アイデアは出してからどう磨き上げるかが勝負。そしてそれには方法論が存在する。」という信念があるという。
それが、組替=分解+再構築 という方程式だ。
経済学者のシュンペーターは、経済成長をドライブさせるイノベーションの本質は、アントレプレナー(起業家)による「新結合」にある、という。新結合とは、まったく新しい何かを創出するのはなく、すでにある要素を「組み替える」ことによってブレークスルーをもたらすと著者は考える。
分解は、以下のステップによって行う。
①当たり前を洗い出す
②当たり前の違和感を探る
③当たり前の逆を考えてみる
さらに、再構築のステップは、未知の事柄A(ターゲット)があるとして、既知の事柄B(ソース)の類似性Cをもとにしてアナロジー分析により行っていくという。
表現
妄想→知覚→組替というステップを経て、それを表現するステージに達する。
この表現は、プロトタイピングのステップで、具体化→フィードバック→具体化を、なるべく短い時間の中で、繰り返す(反復=イタレーション)が重要となる。
読後感
妄想が大事なんですね。「どうすれば他人(顧客)が満足するか」というマインドだけでは、何か新しいことを発想したり、考える力が失われてしまう。「他人モード」に慣れてしまい、自分がどう感じるかがわからなくなってしまいます。
私もマーケティング分野の経験が長いので、この指摘には、ハタと膝を打ちました。自分モードで考え、自分発の発想から始めないと、現代のような過剰の時代に、意味を求める消費者を魅了するような製品・サービスを生み出すことは難しいでしょう。
なお、同じ著者による『ひとりの妄想で未来は変わる VISION DRIVEN INNOVATION』(日経BP 2019年 1,800円+税)では、「創造と変革の36の智慧」と題して、20の変革のツボと16の創造のエッセンスが事例とともにまとめられています。